大阪高等裁判所 昭和57年(ネ)1346号 判決
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
一、当事者の求める裁判
1.控訴人
(一) 原判決を取消す。
(二) 債権者を被控訴人株式会社第一勧業銀行(以下被控訴人銀行と略称する)、債務者を控訴人とする大阪地方裁判所昭和五三年(ケ)第六八九号不動産任意競売事件につき作成された代金交付表中、被控訴人銀行に対する配当額のうち、(イ)の利息損害金五万九三四四ドル九三セント(一二五二万一七八〇円)、(ロ)の元金のうち五〇〇万円及び利息損害金三五七万二四九二円の部分を取消し、被控訴人札場逸八郎、被控訴人高宮清視に対する配当額はそのまま零とし、控訴人に残余金三六六万四四七〇円を交付する。
(三) 訴訟費用は第一・二審とも被控訴人らの負担とする。
2.被控訴人ら
主文と同旨
二、当事者の主張
次に付加するほか、原判決の事実摘示のとおり(但し、原判決七枚目表一一行目の「外貨付金一覧表」を「外貨貸付金一覧表」と、同裏二、三行目の「外貨貸付一覧表」を「外貨貸付金一覧表」と、別紙二枚目の「外貨貨付金一覧表」を「外貨貸付金一覧表」と改める)であるから、これを引用する。
(控訴人)
1.本件保証協会の保証付貸付金は、控訴人が年末を控え、運転資金が必要なため申込をしたものであり、被控訴人らが主張する、与信の担保とするための預金を創設する目的ではなかった。すなわち、被控訴人銀行に対する控訴人の担保は、土地建物、定期預金、株券、約束手形等合計五一五〇万円にのぼるほか、資力ある保証人による人的担保も有していて充分であり、新たに担保提供する必要はなかった。
しかるに、被控訴人銀行は、控訴人の承諾なく本件貸付代り金を定期預金として拘束し、控訴人に対し融資契約を履行しなかった。控訴人はこれらの債務不履行ないし不法行為により、本件外貨貸付金の元金支払の遅滞を余儀なくされたのであるから、控訴人が右外貨貸付金の損害金を支払う義務はない。
2.信用保証協会の融資保証は運転資金と設備資金のみで、担保とするための預金融資は存在しないところ、被控訴人銀行は控訴人に対し本件保証付貸付金を運転資金として使わせず、自己の優越した立場を利用して貸付と同時に即日全額を定期預金として拘束したものであって、これは金融機関に対し両建預金の自粛を求めた大蔵省銀行局長通達にいう即時両建預金にほかならない。
従って、仮に被控訴人銀行の預金拘束が控訴人の承諾に基づくものであったとしても、右の即時両建預金は信用保証制度の趣旨に照らして許されず、昭和二八年公正取引委員会告示一一号によるいわゆる不公正な取引方法の一般指定の一〇(取引上の優越的地位の不当利用)に該当し、独占禁止法一九条に違反する不法行為である。
(被控訴人銀行)
1.本件保証付貸付の実行、定期預金の創設及び質権の設定ならびにこれに関連する被控訴人銀行の行為は、いずれも被控訴人銀行と控訴人の合意に基づくものであって、被控訴人銀行の債務不履行にも、また不法行為にも該当するものではない。
2.本件貸付及び定期預金の拘束は控訴人の外国為替取引の必要からなされたものであって、自粛の対象となる即時両建預金にはあたらない。被控訴人銀行は右担保の補強により控訴人の要請に応じ与信額の拡大に協力したのであって、控訴人はそれにより外車輸入の営業活動を拡大してきたのであるから、本件貸付及び定期預金の拘束はむしろ控訴人にとって利益である。
三、証拠<省略>
理由
一、当裁判所も控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきものと判断するものであって、その理由は、次に付加、訂正するほか、原判決の理由説示と同一であるからこれを引用する。
1.控訴人は、本件保証協会の保証付貸付金は事業運転資金とするためのものであるから、これを控訴人に無断で定期預金にして担保として拘束するのは、貸付契約に反する(かつ、その債務不履行ないし不法行為が原因で外貨貸付金元本の支払を遅延した)と主張した。<証拠判断省略>。
かえって、<証拠>を総合すると、控訴人は昭和四八年一一月頃より被控訴人銀行との間で、外車の輸入に関して信用状の発行及びユーザンスの供与を受けるため外国為替取引を開始したこと、その際控訴人は被控訴人銀行のために担保として五〇〇万円の定期預金に質権を、土地建物に債権極度額一〇〇〇万円の根抵当権をそれぞれ設定したが、その後外車輸入量の増加に伴い取引が拡大したので、控訴人は被控訴人銀行に対し担保として大和銀行の株式六〇〇〇株を差入れ、昭和四九年二月には前記根抵当権の債権極度額を二〇〇〇万円に増加し、かつ廻り手形を担保に提供し、その一方で右取引に関し被控訴人銀行の控訴人に対する与信額の拡大を要請したこと、ところで、控訴人が担保提供した土地建物の担保価格は二七〇〇万円程度であり、定期預金や株券をあわせてもその担保価格の合計額はせいぜい三五〇〇万円程度であったのに対し、控訴人に対する信用状の発行、ユーザンス供与等による与信額は次第に増加して昭和四九年九月末頃には三九〇〇万円以上にも達していたこと、そこで、被控訴人銀行は右の担保不足の状態を解消すべく、前記担保不動産の極度額を担保価値を相当上まわることを承知のうえで、三五〇〇万円に増額変更するとともに、右不動産の担保価格不足の補強と控訴人からの与信額拡大の要請にそなえ、被控訴人銀行が控訴人に対し、府及び市の保証協会の保証を利用して被控訴人銀行が控訴人に合計五〇〇万円の貸付をなし、右貸付金を定期預金にしてこれを担保として被控訴人銀行に提供する方法を提案したこと、控訴人は当初逡巡したものの、結局右提案を受入れて保証協会に保証委託の申込をすることになり、控訴人と被控訴人銀行間において、前記方法による貸付金五〇〇万円をもって定期預金を創設し、これを信用状開設等の担保に提供する旨の合意が成立したこと、そして、控訴人と被控訴人銀行は、昭和四九年一〇月府及び市の保証協会に対し、信用保証依頼の手続をし(但し、資金使途は名目上運転資金とした。)、被控訴人銀行は、同月二五日府の保証協会の保証による三〇〇万円の証書貸付をして利息五万〇九五八円を差引いた二九四万九〇四二円を、同月二八日市の保証協会の保証による二〇〇万円の証書貸付をして、利息三万二九七二円及び保証料四万八四〇〇円を差引いた一九一万七六二八円をそれぞれ控訴人の当座預金口座に振込んだこと、右各同日、被控訴人銀行は、すでに控訴人の了解の許に控訴人代表者の署名(記名)押印を得ていた関係書類に必要事項を記載したうえ、振替支払票により各貸付金額の三〇〇万円及び二〇〇万円を当座預金から定期預金に振替え、右各定期預金に質権を設定させ、これを拘束したこと、以上の事実が認められる。
右認定事実によれば、本件保証協会の保証付き貸付金は、控訴人の外国為替取引についての担保不足を補うため新たに担保を提供することを目的とするものであって、控訴人と被控訴人銀行間のその旨の合意に基づき当座預金に振込まれた右貸付金を定期預金に振替え、これに質権を設定して拘束したものであるから、右事実をもって貸付契約の債務不履行ないし不法行為とする控訴人の主張は理由がない。
2.控訴人は、本件定期預金を拘束したのは即時両建預金に当り、不公正な取引方法であって、独占禁止法一九条に違反すると主張する。
なるほど本件定期預金は、本件貸付代り金をもって貸付の日に創設されたものであるから、形式上は即時両建預金に当るといえる。
しかしながら、本件定期預金は、前認定のとおり、控訴人と被控訴人銀行との信用状開設等の外国為替取引についての担保不足を補うために新たに担保に提供するとの合意に基づいて貸付代り金をもって創設されたものであって、本件定期預金の拘束性は、控訴人が自己の外国為替取引のためという経営的事情により自発的になされたものであることが明らかである。それゆえ、本件定期預金の拘束は、金融機関がその取引上の優越した地位を濫用して、貸付の条件として預金を強制し、その引出を制限するような拘束を加えるとか、実質的金利を高め、不当に暴利をむさぼる手段としてなされたものとは異るから、独占禁止法一九条の不公正な取引として自粛の対象となる即時両建預金に当らないものといわなければならない。
なお、<証拠>によれば、信用保証協会の業務の現状から、中小企業者が信用状の開設等外国為替取引による与信に対して直接保証協会の保証を得ることができないので、それに代る便法として、保証協会の保証による貸付代り金で定期預金を創設し、信用状開設等の担保とする方法が銀行業務において定着し、かつ、保証協会の業務の一形態として是認されていること、そして本件定期預金はそれにならっているものであることが認められる。
従って、控訴人の右主張は理由がない。
二、よって、原判決は相当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 上田次郎 裁判官 広岡保 森野俊彦)